No.17 −石炭− 後編





◎四歳の炭鉱夫もいた!――児童労働の実態

 イギリスにおける石炭産業の発展は、大量の燃料を必要としたガラス生産を増大させた。その結果イギリスでは世界で最も早く窓ガラスが普及し、イギリスの家屋は太陽光線を受けていちだんと明るさを増した。石炭は、人びとの生活をも革命的に変化させていったのである。
 産業革命による生産力の飛躍的増大は、本来人間の生活を豊かにするはずであった。しかし、現実には工場や機械を所有しているのは資本家であり、労働者は資本家に労働力を提供して資金を得なければ生活できなかった。「囲い込み運動」の進展や、手工業の没落で、当時のイギリスには大量の労働力が存在していたため、資本家は一方的に労働者に低賃金・長時間労働を強制することができた。また機械の使用は、婦人や子供を安い賃金で働かせることを可能にし、幼・少年少女労働という悲惨な状況を生みだした。
 炭鉱の労働条件も例外ではなかった。地下深くで重労働に従事する児童労働が問題にされはじめたため、政府も重い腰をあげ、一八四〇年、「炭鉱における女子ならびに児童の雇用に関する実態調査のための委員会」を設けた。以下は同委員会が一八四二年に出した報告書の一部である。



   炭鉱における児童労働の実態

  蒐集し、かつそれについての摘要を示そうとして努めた證拠資料の全体から、われわれは、炭鉱に関して、

 一、 これらの鉱山での雇用が開始される通常の年齢は八歳から九歳にかけてであるが、児童たちが早くも四歳で、ときには五歳、また五歳と六歳との間で、同じく七歳から八歳 にかけて、これらの鉱山に労働者として採用されている実例があるということ。

 三、 幾つかの地方によっては、女の子が男子と同様な幼い年齢で、これらの鉱山で働き始めているということ。

 七、 ……これら児童たちがその日の労働が始まるやいなや坑内にいなければならないこと、そして現行の制度によれば、彼らがその日の労働が終了するまでは坑内を立去ってはな らないことを必要としていること。

 九、 ……幾つかの地方では、これら児童たちは彼らが坑内にいる全時間を通じて孤独と暗黒のうちに置きざりにされており、作業の進んでいない週のうち幾日かと日曜日とを除いて、冬季の大部分を通じ何週間かぶっ続けに日光をまったく見ることがないということ。

 一一、 女子が坑内に入れられている地方では、男女両性がまったく同じ種類の労働に一緒に従事し、また同じ時間数を労働しているということ、少女も少年も、青年男女も、また結婚している婦人や子供のある婦人でさえも、通常、ほとんど裸で作業しており、また成年男子は、多くの鉱山で、完全に裸体で作業しているということ、そしてすべての階級の證人が婦人を地下で雇用することが道徳の頽廃を招くことの證言を与えている、ということ。

以上を認定する。

(谷 和雄訳『西洋史料集成』平凡社)



 この報告書をもとに、政府は同年(一八四二)一〇歳未満の児童の地下労働を禁止し、女子の地下労働に大幅な制限を加えた。炭鉱の労働者は、しばしば落盤やガス爆発の犠牲になるなどきびしい労働条件下におかれていた。これはなにもイギリスに限ったことではなく、日本をはじめ全世界共通にいえることであった。世界に先がけて産業革命を達成し、豊かな資本主義社会を築き、七つの海に君臨した大英帝国を陰で支えていたのが、これら下積みの労働者たちであったことも忘れてはならないであろう。

◎広がる石炭の用途――石炭化学工業

 コークスを製造するための石炭乾溜の副産物として石炭ガスとコールタールが取り出された。このコールタールからはベンゼン、ナフタリン、フェノール、ピッチなどがとれ、それらからはさまざまな製品がつくられるようになった。
 石油の需要の増大によって、燃料としての石炭の用途は、大幅に減少しつつあるが、石炭化学の分野の研究開発は、近年ますます進み、石炭化学工業の発展とともに、その原料としての石炭の役割はこれからも重要性を増すばかりである。



次回は「石油」です。




 
   このページは著者及び出版社の承諾を得て、掲載しております。  

■■本の紹介■■

 古代エジプトの金の採掘から、現代の太陽電池の開発まで、53の「物」の歴史についての考察。

 書 名:『物が語る世界の歴史』
 著 者 :綿引 弘(わたひき ひろし) 
 出版社:聖文新社
 定 価:2330円+税
 


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