No.28 −帆船− 前編
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◎船は人類の歩みとともに 人間が誕生して、狩猟・漁労で集団生活を始めたときから、人間はどうしても川を渡らねばならなかったし、川や海で魚をとらねばならなかった。また欝蒼(うつそう)たる森林や険(けわ)しい山岳地帯を移動するにはどうしても河川を利用せざるを得なかった。このような必要から人類は、原始時代から、いかだ(筏)、葦船(あしぶね)、皮袋製の船、樹皮製の船、丸木船などを考案して利用してきた。 古代のエジプトでも最初はパピルスを束ねた葦船がナイル川を行き来していたが、やがて木造船が現われ、紀元前一五〇〇年ごろには横幅の広い帆船が出現した。壁画に描かれた絵や、出土した船の遺構から、長さ五四m、幅一八mでおよそ一二〇人を乗せたエジプトの帆船が地中海沿岸を航行していたことが知られている。 このエジプトの横帆(square sail)はその後のギリシア人・ローマ人・ノルマン人の船にも影響を与え、その構造は近世の帆船のものと基本原理は同じであるという。 フェニキア人は、紀元前一三世紀ごろからシドンやティルスなどの海港都市を中心に地中海貿易に活躍し、遠く大西洋やインド洋にまで航行した。彼らは外洋での航海に耐えられる大型船をつくり、速度をあげるために、かい(擢)の漕ぎ手を増やす必要から二段かい船や三段かい船を建造した。 ギリシア時代に入ると、造船技術上の大きな前進があった。それは船体を竜骨と肋材でつくる方法で、これにより荒波にも耐えられる丈夫な船がつくられるようになった。一九六五年にキプロス島の北の海底で発見された紀元前四世紀ごろのギリシアの商船は、全長一五m、幅四mで、およそ三〇トンの貨物を載せることができた。 帆はエジプトの横帆と同じものであった。 一方、軍船は、サラミス湾の海戦の壼絵などから、帆はなく二ないし三段かい船で、船首を敵船にぶつけて沈めることを主な戦法としていたため堅固な衝角をつけていた。次のローマ時代の船は、基本的にはギリシア時代の船と変わらず、遠洋航海船は大型化されたため、部分的に金属を用いたりして補強が行われていた。 ◎イスラム商人のダウ船 イスラム世界では、各地に都市が発達し、商業や手工業が盛んであった。とりわけアッバース朝時代(七五〇〜一二五八)のイスラム帝国では、外国貿易に従事する大商人が生まれ、めざましく活躍した。イスラム商人はペルシア湾・紅海から地中海とその沿岸、大西洋からバルト海へ、またインドから東南アジア・中国の沿岸地方にまで進出した。『アラビアン−ナイト』のなかの「アリババと四〇人の盗賊」、「シンドバットの冒険」などは、イスラム商人が広く世界各地にまで出かけていって活躍していたことを背景につくりあげられた物語である。取引には金・銀が用いられたが、すでに為替手形や小切手も使用されていた。 イスラム商人たちの用いた船は、いっさい釘を使わず、板をやしの木の皮でつくった縄で縫い合わせ、継ぎ目に油やタールをぬった小型の船(といっても二〇〇トン近くある相当大きな船もあった)で大きな三角帆で走った。これらはダウ船と総称されている。波の荒い東シナ海では大型船に乗りかえることもあったが、ペルシア湾と中国との交易には、往復一年半を要したという。 このダウ船は今も、アラビア湾・紅海・インド洋で現役として活躍している。 ◎鄭和の大航海を可能にした大型船 明の第三代の皇帝永楽帝は、イスラム教徒で、宦官(かんがん)の鄭和(一三七一〜一四三四?)に命じて、一四〇五年から三〇年間に、七回にわたって南海の遠征を行わせた。この遠征派遣の目的は、明の威力を海外にひろめ、朝貢貿易の利をはかろうとしたことにあったといわれる。鄭和の大船団は、マレー半島からセイロン島・ペルシア湾・アラビア半島におもむき、のちにはその一部はアフリカ東海岸やメッカにまで達し、沿岸諸国に朝貢をすすめた。第一回の遠征は二万七八○○人を乗せた六二隻の大船団で行われた。平均すると一隻に四五〇人近くが乗り組んでいたことになる。船は長さが、四四丈(約一三〇m)もある大型船で、多くが三本マストであった。航海には星の位置の測定と中国が世界に誇る羅針盤が用いられたため位置の把握が正確にでき、遠い大洋を安全に航行することができた。 中国では、唐代の遣唐使船にもみられるような外洋船が古くから建設され、改良が加えられてきており、この鄭和の遠征は、ヨーロッパの大航海時代よりも半世紀から一世紀近くも以前のことであり、明は当時の世界で、最も進んだ航海術と造船の技術をもっていたということができる。 後編に続く |
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■■本の紹介■■ 古代エジプトの金の採掘から、現代の太陽電池の開発まで、53の「物」の歴史についての考察。 書 名:『物が語る世界の歴史』 著 者 :綿引 弘(わたひき ひろし) 出版社:聖文新社 定 価:2330円+税 |
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