No.163 −賢治の文語詩−



   今年8月1・2・3日に、日本私学教育研究所の直轄研修会が、これまた例年通り、
  東京、市ヶ谷のアルカディアで行われます。今年のテーマは「日本文化の中の宮沢賢
  治」です。
   もう大部多くの方から参加申し込みがある様子ですが、今回のテーマは、それに因
  んで「賢治の文語詩」です。というより、宮沢賢治研究会編の「宮沢賢治文語詩の森」
  (柏書房刊、99'、6月)のご紹介といった方が正しい。
     では、ともかくも、とりあえず……。


               岩手公園
                       宮沢 賢治

       「かなた」と老いしタピングは、    杖をはるかにゆびさせど、         
       東はるかに散乱の、          さびしき銀は声もなし。           
                                                                              
       なみなす丘はぼうぼうと、       青きりんごの色に暮れ、           
       大学生のタピングは、         口笛軽く吹きにけり。             
                                                                              
       老いたるミセスタッピング、      「去年(こぞ)なが姉はこゝにして、
       中学生の一組に、           花のことばを教へしか。」         
                                                                              
       孤光燈(アークライト)にめくるめき、 羽虫の群のあつまりつ、           
       川と銀行木のみどり、         まちはしづかにたそがるゝ。       


   最初にご紹介したこの御本は、1979年頃から始められた「校異を読む会」にその
  源を持ったグループの方々の、たゆまぬ研究の成果としてまとめられたもので、加え
  て宮沢賢治研究会関係の活動と、不即不離の成果としても、生み出されています。
     従って、その内容を本格的にご理解いただくには、直接、お読みいただくのが最も
  適切なのですが、その導入の役目だけでも果たせればと思っています。

   最初に示したこの作品の場合も、原詩の掲載に続き、「語注」が(これ又詳しい)
  あり、「鑑書」の項があり、そこに、この詩のねらいや、下書稿との関係、その関連
  歌やメモ類の分析、固有名詞として登場する人物、場所や建築物などの紹介、その歴
  史的な変化などについても触れられ、結果として冒頭の詩のより深い鑑賞となって
  ゆくのです。
   この詩の場合は、特にタッピング家の人々との関係について分析がされています。
   関連作品として紹介されているのが、「大正7年5月」よりの短歌です。

        暮れざるに険しき雲の下に立ち
                白みいらだつアーク燈かな

        黒みねを我がとびゆけば銀雲の
                ひかりけはしく流れ寄るかな

                            など……。
   もう一つ。

                早池峯山巓
                             宮沢 賢治

        石絨(アスベスト)脈(すじ)なまぬるみ、苔しろきさが巌にして、        
        いはかゞみひそかに熱し、ブリューベル露はひかりぬ。             
                                                                       
        八重の雲遠くたゝえて、西東はてをしらねば                       
        白亜紀の古きわだつみ、なほこゝにありわぶごとし。               

    語注
     早池峯山巓 山巓は山頂の意。早池峯山は北上山地のほぼ中央に位置する最高
       峯、標高1914m。蛇紋岩からなる残丘で、ハヤチネウスユキソウなどの高
       山植物の宝庫。岩手山とともに賢治が最も愛した山である。

     石絨(アスベスト)
       (以 下 略)


   このような註が、以下1頁余りあって、「鑑賞」に入る、という訳です。鑑賞の項
  は5頁に及びます。


   最近、宮沢賢治関係の御本が他に2冊出されていますので、参考になさって下さい。

      門屋 光昭;(かどや みつあき);「鬼と鹿と宮沢賢治」
                          (集英社新書、'00,6月)
      岩川 直樹;「<私>の思想家宮沢賢治」(「春と修羅」の心理学)
                          (花伝社、'00,4月)



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