運河(カナール)を遡りゆくひとりなる白鳥よ
去年(こぞ)を憶えているか
佐々木 幸綱
馬場あき子氏の「はるかな父へ」('99,7月、小学館)によれば、上記の御作は佐々
木氏が'98にオランダ滞在中のものであろうとされています。やはり、お正月の頃な
のでしょうか、それとも、オランダにまつわる昨年の何かの想いがおありだったのでしょうか。
いずれにせよ、その気分は年末年始の所懐として美しい。
白鳥といえば、まず新潟県の瓢湖が有名ですが、最近は、そんな湖や潟が随分多く
なっているようです。しかし、何といっても新潟のイメージが強いのは、その地方の
「雪」とのかかわりの強さではないでしょうか。
白鳥の羽交(はがい)に雪の積る夜の
しじまは白き神いたるとき
谷川 健一
白鳥が首を挙げて「クォー」と鳴く時、周辺の静寂は一層深まるのです。ただ、現
実には、白鳥は一羽だけ鳴く時は少なく、一羽が鳴くと他の鳥も一斉に鳴き始めます
ので、その賑やかなこと!「白き神」も逃げ出したくなるでしょう。
白鳥は、一羽だけの方が美しい。
そして……。
雪明り月明りなる越の野に
白鳥(くひ)明り微かに湖を灯せる
箕原 和子
白鳥は、また「鵠(くぐひ)」とも言われます。「白鳥(くひ)明り」とは、造語
とも思われますが、情趣の深いことばです。
加えて、
さんさんと夜の海に降る雪見れば
雪はわたつみの暗さを知らず
山田 富士郎
この「海」は、日本海の越後の海がふさわしい、とも思います。私が住んでいたこ
とのある地は長岡市でしたけれど、北陸線には、学校への帰着・実家への帰省の度毎
に乗っていましたし、それは、日本海沿いに走っていたのです。もちろん蒸気機関車
の時代です。暗い、黒い海の色が憶い出されます。
最後に倭健命(やまとたけるのみこと)が逝くなられた時、白鳥の姿となって飛び
去られたという伝説にまつわる歌を。
いにしへも斯(か)かりき心いたむとき
大白鳥となりて空を行く
与謝野 寛
(鉄幹)
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