No.191 −こどもの詩−



   今まで、数え切れないくらい、子供の詩を取り上げて来ました。よく引用させてい
  ただいた川崎洋氏の御作には、どれにも、もっともっと多くの子供の作品が紹介され
  ていますが、それでも、やっぱり、私は私なりに「こどもの詩」に、心を惹かれ続け
  ています。
   詩は、感動のエッセンスが、「コトバ」になって出て来たもの。だから、生まれて
  始めて人間を経験している子供のことばは、古びた人間にとって、とても感動的なん
  だろうと思います。当たり前になってしまったことの中から掘り出された、新しい発
  見。それが「こどもの詩」なんですネ。


              息を 殺せ
                                    八木 重吉

                      息を 殺せ                         
                      いきを ころせ                     
                      あかんぼが 空を みる             
                      ああ 空を みる                   
                                (「秋の瞳」大14)

   上の作品が作られたとき、作者八木重吉氏は25、才結婚後1年目に当たっていま
  した。この時の「あかんぼ」は長女桃子に当たります。
   しかしそんなことはどうでも良いこと。これから生きて行く「あかんぼ」の、生き
  ることの営みの最初の姿、ことばになる前の鮮烈な経験の始まり。それが、何もない
  「空」であっても……。
     逆に、その姿を見ているのが、大人であり、親であるからこそ、その「あかんぼ」
  の生きる姿に心をうたるれのです。

   人間は、そうやって人生を生き始めます。


                 ママ
                         田中 大輔

                 あのねママ                                            
                 ボクどうして生まれてきたのかしってる?                
                 ボクね ママにあいたくて                              
                 うまれてきたんだよ                                    
                           (川崎 洋編「子どもの詩」花神社  
                            収録、'82、作者は当時3才)     

   もちろん、この作品は、お母さんが書きとめたものです。解説も、注釈も、意味づ
  けも、不要です!


                 さくら
                        酒井 健司

                            おばあちゃん                                      
                            おはなみにいって                                  
                            さくらのはなが                                    
                            ごはんのうえに                                    
                            おちてきたら                                      
                            どうしたらいいの                                  
                            (川崎 洋編著「ママに会いたくて生ま   
                             れてきた」読売新聞社、作者は当時3才)

   困ってしまいますねェ。さくらのはなはきれいだし、捨てられないし、ごはんはお
  いしくて、たべたいのに……。世の中のことをよく知っているおばあちゃんだって、
  困ってしまいます。
   あなたなら、どう答えますか?

                お姫様ごっこ
                         上原 あゆみ

                    さや(「妹さやか」)                               
                    お姫様ごっこしようよ                             
                                                                     
                    やだ                                             
                    いっつも姉ちゃん                                 
                    ばっかり                                         
                    お姫様なんだもん                                 
                                                                     
                    それじゃ                                         
                    さやを王子様にしてあげるから                     
                                                                     
                    王子                                             
                    ごみをすててきてください                         
                              (前掲書より、作者は小2)   

   楽しいですね。しっかりしてますね。でもユーモアも厳しさも、人間の「社会」で
  す。姉も妹も、工夫しながら成長しているのです。それが微笑ましい。人間のおかし
  さでもあります。
     これが大人に向けられるとどうなるでしょう。

                 ママ
                        すえまつ まりこ

                 ママがよそへいってなにかたべるとき                            
                 わたしのほうをむいて                                          
                 目をほそめておもしろいで                                      
                 そんで すましとうでえ                                        
                 そんで ママにきいたら                                        
                 おんなはすまさなあかんねんいうとった                          
                 ママはあんまりすましすぎて                                    
                 こぼしとうねん                                                
                 そんで あらこぼしちゃったいうて                              
                 すましながらいうとんねん                                      
                 うちとぜんぜんちがうな                                        
                 せんせい よそのうちへいってたべるとき                        
                 すまさんでもええで                                            
                               (灰谷 健次郎編「たいようのお    
                                なら」のら書店、作者は6才) 

   おしまいの所に、先生への忠告が入っているのがすごい。こどもは、大人をよく見
  ています。
  生徒は先生をよく見ています。人間性の裏までも……。その善し悪しにかかわらず。
  こどもは、大人を手本にするしかないのですから。
   しかし、鋭い ですねェ……。

   最後に、大人の表現を。


              ライフ・ストーリー
                           大岡 信

                    一羽でも宇宙を満たす鳥の声                      
                    二羽でも宇宙に充満する鳥の静寂                  
                                                                    
                                 (「草府にて」思潮社) 

    (注)
      今回の作品紹介は、以前からよく知っていたものも多いのですが、直接的に
     は 宗 左近編著「あなたにあいたくて生まれてきた詩」(新潮社、'00、11月、)
     によって、行われました。


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