No.225 −愛の俳句(3)−



   ラストを飾るのは、稲垣きくの(1906〜1987)。

   お若いとき、松竹蒲田撮影所で女優を志すも、撮影所の大船への移転を
  前にして目的を果たせなかった。強烈な自信に反する挫折、愛と憎しみ、
  そして、妬心。揺れ動く心の果ての寂寥。
     今迄のお二人とは違う激しさと情景が、句として結実していきます。


       滝の音によろけて掴む男の手


       蝿打ちてをとこの卑劣恕しがたし


       止めどなく流転舌やく蜆汁


       枯野の日帰りて逢へるひとならず


       人憎し秋思の胸に釘うちこむ


       冬の夜人をへだてし何の齟齬(そご)


       死場所のなき身を思う花野きて


       ついに子を生まざりし月仰ぐかな


   当方の思いこみの故かもしれませんが、映画の一場面を思わせます。
   「スター」というものは、常に自分が注目の的になってこそスター。そ
  うなる筈の人生が、そうでない時の焦燥と内に籠もる怒り。そうなってし
  まうと解っていて、そうしてしまうプライド。
     「スター」程、その位置にいる人といない人の差の大きさを感ずるもの
  はありません。そして、なった人となれなかった人の人の数の差の大きさ!
   ところが、なったひととなれなかったひとの「気質」自体は、まったく
  同じという場合が多いものなのです。強烈な自己中心的な性格、注目され、
  大切にされ、王女の如く君臨していたい、輝いていたい、という思い込み、
  それが、なれなかった時にどういう思いになるでしょうか。

   今から、半世紀も以前、多少、カツドウヤの世界を垣間見たことがあり
  ました……。
     念の為に申し添えますが、私がなりたかったのは、役者の方ではありま
  せん。
   セーラー服を着た岸恵子は可愛かったですよ。


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