No.198 −ニューヨーク−
Ave. of The Americas
辻 仁成
(ひとなり)
摩天楼の谷間に飜る星条旗
吹奏楽団が高らかに演奏する国歌
惜しみなく声援をおくる国民
母国の熱狂には音がない
私はパジャマ姿で
アベニューオブアメリカに立ち
テレビのリモコンを握りしめ
パレードが過ぎ去るのを見送っては
自白を繰り返した
どんなに揺るぎなくとも
一陣の風に翻る国旗
誰も風を見ず
はためく権威ばかりを議論したがる
好きなくせにわざと嫌いと言ってみたり
いつまでも裏声でハモっていたり
テレビのボリュームは消されたまま
そういう時代に私はながく育てられた
垂直都市で濾過され
地表を目指す一滴の水
深淵で水脈に押し流され
やがて大海を夢見るも
故山(こざん)を忘れない
(「ニューヨークポエトリーキット」、00.2月.思潮社)
日本の詩人又は文学者で、海外を舞台にした作品が発表されることは、最近では珍
しくなくなっていますが、その土地にしっかりと馴染んだ生活から生まれてきている
ように見えても、異邦人としての存在感や、借り物の生活、という「思い」が、或い
は又、根強い日本での生活の影が、フト出てきてしまうことがあるようです。
そんな時、私たちはやっぱり…とか、ウンとか思って安心したりします。
Off Hour Wating Area
辻 仁成
同じホームに行き先の違う
電車が滑り込んでくる
Penn Station
Madison Sq. Garden
深夜の地下鉄で帰る
人が少ないので黄色い枠の中で待った
おなじように避難していた東洋人の少女が
私の視線を 避けはじめる
[アーユージャパニーズ?]
[アーユージャパニーズ?]
[アーユージャパニーズ?]
[アーユージャパニーズ?]
巨大都市の内臓の匂いが充満している
それが脳を刺激し
頭の宇宙をますます分裂させる
小脳に張りめぐらされた血管を走る電車
金属の擦れあう原始的な轟音が私を振り返らせる
真赤なダリアが咲いている
長い髪の毛の間から突き出た角のような彼女の耳
鋼鉄のギロチンが閉じ
新しい氷河期へ向けて電車は出発する
愛に飢えた人々を乗せて
[アーユージャパニーズ?]
[アーユージャパニーズ?]
[アーユージャパニーズ?]
(同 上 書)
あまり幼い時からバイリンガルで育てると思考に混乱が起きてしまう…と聞いたこ
とがあります。俗にいう「モノゴコロ」がつくまでの間は、特定の言語(母語)を中
心とする生活があって、はじめて多言語への転用が成立するのかも知れません。
言語の本質は、論理的に、文法を考えながら、というものではなく、反射的に、意
識を越えた状態で使われるものなのでしょう。
外国人が日本の家に靴のまま上がりそうになったり、日本人が外国人の家に入る時、
どこで靴を脱ごうかと瞬間的に考えるようなものです。
かつて、私がバークレー大や、UCLAの中を歩いていたとき、出会った日本人に、
つい、「いつから、こちらに?」と尋ねてしまったことがありましたが、「ワカラナ
ーイ」という感じで肩をすくめられてしまいました。目の前の人は三世だったり、韓
国の人だったりしていたのです。で、その後「何故声をかけたのかな?」と考えまし
た。
何故でしょう……。
ALL YOU CAN EAT
辻 仁成
嫌いになるのが分かっていながら好きになる
そのうち嫌われるのを知りながら好きになる
「ALL YOU CAN EAT $22.98」
寿司バーで食い放題
好きなものから食べることにしている
好きなものだけ食べることにしている
自分の嫌いなところ
本当に好きになったら
相手が自分を好きではなくても
やっていけること
スパイシーツナチキン
シュリンプハンドロール
エッグカスタード
サーモンスキンキューカンバー
イールアボガドロール
ソフトシェルクラブロール
とりあえず日本人のぼくはトロからはじめる
邪道こそ、あらゆる正道
(同 上 書)
男もいろいろ、女もいろいろ
世界もいろいろ……。
でも、人間は人間。
「はな・ひと・こころ」へもどる