No.202 −六月の雨−



   今年も梅雨の季節がやってきました。例年のことなので、次第に話題とする材料が
  なくなり始めていますが、とり敢えず御紹介。


                六月の雨
                                               中原 中也

                    またひとしきり 午前の雨が             
                    菖蒲色の みどりいろ                   
                    眼(まなこ)うるめる 面長き女(ひと) 
                    たちあらはれて 消えてゆく             
                                                           
                    たちあらはれて 消えゆけば             
                    うれひに沈み しとしとと               
                    畠の上に 落ちてゐる                   
                    はてしもしれず 落ちてゐる               

                        お太鼓叩いて 笛吹いて         
                        あどけない子が 日曜日         
                        畳の上で 遊びます             
                                                           
                        お太鼓叩いて 笛吹いて         
                        遊んでゐれば 雨が降る         
                        櫺子(れんじ)の外に 雨が降る 

                  (斉藤 千恵「若い人への詩」'65,7月から記載)

   この詩のイメージが、所謂(いわゆる)梅雨、の情感と異なっているのは、後半の
  部分の為でありましょう。
     無心な稚い遊びとの対比が、逆に、沈んだ、はてのない思いを強めているのでしょ
  うか。



              都に雨の降るごとく
                          P.ヴェルレーヌ
                          訳.鈴木 信太郎

               都には蕭(しめ)やかに雨が降る。
                                                    (アルチュール・ランボー)

                    都に雨の降るごとく                 
                    わが心にも涙ふる。                 
                    心の底ににじみいる                 
                    この佗びしさは何ならむ。             
                                                       
                    大地に屋根に降りしきる             
                    雨のひびきのしめやかさ。           
                    うらさびわたる心には               
                    おお 雨の音 雨の歌。             
                                                       
                    かなしみうれふるこの心             
                    いはれもなくて涙ふる               
                    うらみの思(おもひ)あらばこそ。   
                    ゆゑだもあらぬこのなげき。         
                                                       
                    恋も憎(にくみ)もあらずして       
                    いかなるゆゑにわが心               
                    かくも悩むか知らぬこそ             
                    悩のうちのなやみなれ。             

                                                (同上書より転載)


   多分、この訳詩の最初の2行は、皆さんご存じの部分でしょうが、後の方まで記憶
  されていたかどうか、と思ってこれ又、敢えて御紹介してみました。さすがにカッチ
  リとした表現は訳詩の古典の一つであろうと思われます。
   何といってもランボーに触発されたヴェルレーヌの詩の鈴木信太郎訳、ですから、
  歌舞伎の忠臣蔵のようなものです。


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