No.261 −金澤−



   最近、私の若輩時代のことを筆にする機会があり、その時を過ごした石川県金沢市
  の冬のことを思い出していました。昭和21年のことでした。
    そして偶然、橋本多佳子氏の句集「紅絲」(昭和26年刊)を手にしました。その中
  に、「金澤へ」というページがあり、そこでの作品が掲せられていました。これも、
  一つのご縁だなぁと思いました。

           雪マント被(かづ)けばすぐに
                     うつむく姿勢
                        橋本 多佳子

           若さかくさず冬帽に雨の粒ふえゆく
                        同  上

           まぐなぎの位置さだまらず雪の上
                        同  上

             (注)まぐなぎ=この場合はまばたき、と同じ


           雪激し一つの地窪埋めむため
                        同   上


   私が金沢市に住んでいたのは、満州のハルピン市から引き揚げてきた直後の、一冬
  でした。尾山神社に向かって左側の家でした。その頃は、神社側の斜面には、お店は
  もちろん、建造物はまったくありませんでした。点々と梅の木があっただけです。
   その後、旧制高等学校(四高)在学中にも金澤で過ごしましたが、冬には帰省して
  いましたので、冬の記憶は、余りありません。とはいうものの、黒いマントを着て、
  朴歯の下駄を履いて、雪の路を歩きました。すぐに雪が詰まって、路傍の石に打ちつ
  けると、雪と一緒に下駄の歯まで落ちてしまうのでした。

            馴るるまで雪夜の枕うちかへし
                        同   上

   下宿とは言え、その家は母の実家でしたから、その為に眠れないということはあり
  ませんでしたが、シンシンとした北陸の寒さは、スチーム暖房に慣れていた大陸育ち
  の私には、応えました。
   


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