No.248 −台湾の詩−
台 湾
陳 秀喜
(チェン シウシー・1921年生まれ)
揺りかごのかたちをした麗しの島
それは 母親のもうひとつ別の
永遠(とわ)に変わらない懐
不屈の先祖たちが
われわれの歩みを見守っている
揺りかごの歌の歌詞は
かれらが繰り返し教え諭したもの
稲藁
ガジュマル
バナナ
ハクモクレン
ふくよかに漂う吸えども尽きない乳香
海峡の波は高々と打ち寄せ
台風は烈しく襲って来る
けっして切々たる教えを忘れてはならない
われらの歩みが整然としてさえすれば
揺りかごは堅固であり
揺りかごは永遠のものであり続ける
母が残してくれた揺りかごを愛(いとお)しく思わない者があろうか
(『台湾現代詩集』'02、1月、国書刊行会刊)
始めにお断りしておきますが、今回ご紹介する詩の数々は( )内に明記したご本
からの引用によるものですが、林永福・是永駿編、是永駿・上田哲二訳、です。
台湾は、日本との関係で言えば、朝鮮半島とよく似た歴史的な関係にありましたが、
そして又、現在では、観光旅行の目的地としても、経済・産業上の諸関係からも、こ
れまた同じ様な関係にありますが、台湾についての文化的な理解という例からみると
き、私たちは極めて無知に近い!のではないでしょうか。その努力の払われかたは、
まことに少なかった!
その意味で、今回ご紹介、引用させていただく御作は、極めて貴重なものと思って
います。そして、これを機会に、より幅広い交流と研究によって、より近い関係にな
ることを願っています。
海 峡
李 敏勇
(リー・ミンヨン・1947年生まれ)
敵対する中に
偽りの親善を装う
だが危機は潜伏したまま
海を灰色に変える
それは軍艦の色
ネズミの色
夢を埋葬し
夢を丸呑みにする
曖昧な風景
陰険な水域
警戒する陣地
ぼやけた国境
白骨が積み重なっている
船の死体が積み重なっている
(1990)
「海峡」とは、もちろん、台湾海峡のこと。中華人民共和国も、台湾の行政府も、
ともに「中国」は一つ、と明言していますが、人事の交流も、経済上の交流も、明確
な協定(条約)の枠の上に成り立っています。対外的な、例えばアメリカや日本との
交流の場合でも、別々な協定の上に成立しています。
台湾は決して単純な「島」でも「地域」でもないのです。
しかも、その地域の中にも、中国大陸から渡ってきた人「本省人」と、昔から台湾
にいた人「本島人」との微妙な対立があります。
まして、中国大陸のすぐそばにある金門島や馬祖島の扱いとなると、ますます微妙
です。その中で、双方の人々は、平然(でもないかも知れませんが)と商取引を行っ
ています。日常生活は、それ程ギクシャクしていないのです。
しかし、少しでも、政治や武力の影が見えると、一挙に緊張が走ります。時には、
アメリカの航空母艦が配置されたりします。
大雁(おおかり)の歌
―散り散りに裂けた高原へ
席 慕蓉
(シー・ムーロン・1943年生まれ)
祖先が深く愛した土地はすでに他人のものになった
だが、天空はまだある
子孫の勇猛な体躯も、もう自分たちのものではない
だが、魂はまだある
黄金のように貴重な歴史は塗り替えられた
だが、記憶はまだある
だから我々はいつも沈黙しながらも、あなたをじっと見ている
あなたが、蒼空(あおぞら)のうえにゆっくりと両翼をひろげるたびに
私達の魂は鋭く痛み、私達の記憶が開かれる
憂愁を背負った大雁よ
あなたはどこへ行くのか?
(1994年6月8日)
今回の引用は、チト政治的な背景を持ったものに片寄ってしまいました。次回には、
もっと叙情的な作品をご紹介したいと思っています。
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