No.251 −做古抄−



   珍しい御本を発見しました。表題とさせていただいた『做古抄』(はうこせう)現代
  かなづかいなら<ほうこしょう> という御作。
   平成13年5月21日、邑心文庫刊、ですからまさに発行直後にお眼にかかった(実
  際には5月11日に求めましたから、奥書の発行日以前だった訳です)のです。
   日本の各種・様々な古典歌謡の形式で書かれた現代の作家(高橋睦郎氏)の作品集
  です。
   先ずは催馬楽(さいばら)から。

               多武峯(たむのみね)
                       高橋 睦郎

                       多武のみね                                   
                       談(かた)らひ山に や をしをし             
                       髯長の 皇子(みこ)もこもれり               
                       公(きみ)も こもれり や をしをし         
                                                                    
                                                                    
                       射ゆ鹿(しし)の                             
                       鞠も蹴ずして や をしをし                   
                       額(ぬか)集め 二人こもれり               
                       一日(ひとひ)こもれり や をしをし         
                                                                    
                                      (同 上 書)

   催馬楽は、上代の歌謡などを雅楽の曲調に併せて歌われたもので、作品は中大兄皇
  子と藤原鎌足の談含を題材としています。
     「鞠を蹴ずして」は、その出会いが蹴鞠の会であったこと、「射ゆ鹿の」はその鞠
  が鹿草で作られていたこと「をしをし」は警蹕(けいひつ)の声。


   時代はぐっと下って、近世初頭の遊僧、高三(たかさぶ)隆達が集め、又は作詩・
  節付けしたという隆達節(りゅうたつぶし)。
     今回ご紹介のものは、もちろん高橋睦郎氏が1980年頃に、久保田一竹の創作「辻
  ヶ花」(染色・制作の和服)の写真に付されたもの。

                  隆達節

                       ひめは橋ひめ きみはさむしろのきみ            
                                                                     
                       花は                                          
                                                                     
                       辻が花をこそ 一のくらゐに                    
                                                                     
                                *                          
                                                                     
                       お茶召せ 團子召せ 花も召さいの              
                                                                     
                       いまを盛りの                                  
                                                                     
                                *                          
                                                                     
                       よその籬(まがき)の 花にはな惚れそよ        
                                                                     
                       惚れまじい                                    
                                                                     
                       ゆゑの                                        
                                                                     
                       色香のゆかしさ                                
                                                                     
                                *                          
                                                                     
                       牡丹は紅白 松はみどり                        
                                                                     
                       一期(いちご)ゆめの色は                      
                                                                     
                       濃(こき)にて候(そろ)                      
                                                                     
                                *                          
                       立つひとよりも 影がかはいやの                
                                                                     
                       影よりも 花の                                
                                                                     
                       ものはかなげな                            
                                                                     
                                *                          
                                                                     
                       鷹匠(たかじょう)どのは 陣羽織召いて        
                                                                     
                       草の手甲(てかふ) ちゃっとつけて            
                                                                     
                       雪白(ゆきじろ)の逸物(いちもつ)            
                                                                     
                       こぶしに据ゑられた                            
                                                                     
                       さても時分の花なう                            
                                    (同 上 書)      


   次は酒楽(さかほがひ)歌。新酒をたたへ、酒神をたたへるもの。
   「勧酒歌」と「謝酒歌」からなるものですが、今回は、後の方だけ。


           謝酒歌(さけにむくいる うた)

                        高橋 睦郎

                    この御酒を 蹈みけむ伴(とも)は             
                    鬚けぶる 齡(とし)と生ふとも               
                    腰熱き 程を成るとも                         
                    女子(をみなご)の 床をも知らず             
                    男子(をのこ)どち 共宿りして               
                    柔らなる 蹠(あしのうら)もて               
                    さにつらふ土蹈まずもて                       
                    挑みつつ 蹈みけれかも                       
                    笑(ゑ)らぎつつ 蹈みけれかも               
                    この御酒の あやに轉楽(うただの)し         
                    胸(むな)輕(がろ)し ささ                 
                                                                 
                                   (同 上 書) 


   私も、相当な珍しもの好きで、いつも鵜ノ目鷹ノ目で物色して歩いていますが、今
  回の作者のように、それを自家薬籠中の物として創作して居られることには文字通り
  脱帽!  

   同書のレパートリーには、他に祝詞・神楽歌・東遊歌(あずまあそびうた)・琴歌、
  長歌・旋頭歌(せどうか)・今様・……常磐津(ときわづ)地唄・小唄・童唄・祭詞
  付け加えて獨吟歌仙!!!


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