No.270 −釣人知らず−



   世の中には、自分の仕事と趣味とを、完全に区別して、別の世界でそれぞれに充足
  して居られる方が多いと思いますが、時々、その領域の解らなくなる方、区別して居
  られない方もおいでです。中には、趣味もまたもう一つの本職にしておいでの方もい
  らっしゃる。
     羨ましい境地だなあ、才能だなあ、と凡夫の私は、よく思うのです。

   今回の作者も、そんな方の一人、だと思っています。


             さあ でかけよう
                        川端 進

              夜中ふりつづいた                                      
              土砂降りの雨もあがり                                  
              娘ははやばやと出かけたし                              
              ごみだしもすませた                                    
              予報どうりとなると今日は絶好の釣日和だ                
              雨後の大釣り                                          
              三束 四束は夢ではない                                
              釣支度は整っている                                    
              さあ でかけよう                                      
              電話やインターホンが鳴るまえに                        
              いつもいくあの川へ                                    
              駅前のコンビニで                                      
              缶ビールとつまみとおにぎりを買って                    
              ボタンを押さないと開かないドアの電車に乗りかえ        
              (最初は知らなかったから、三つもやりすごしたよ)      
              無人の小さな駅で降り                                  
              (駅員の顔を見たことがないからね)                    
              民家の間を歩いて                                      
              寄り道などしないで                                    
              まっしぐらに                                          
              彼と彼と彼女と                                        
              そしてたくさんの雑魚達が                              
              ぼくを待っていてくれる から?                        
              さあ 出かけよう                                      
              いつもいくあの川                                      
              ながいけ川へ!                                        
                                                                    
                       (川端 進『釣人知らず』ふらんす堂、
                        02、9月)                        


               著者略歴
                 1940年 三重県松阪市生まれ
                 横浜詩人会会員
                 メンバーシップ アユ クラブ(通称マック)会員
                 個人雑誌「釣果」発行

   フム フムと、又はニヤ ニヤとしながら、お読みになった方も、おいでのことと
  思います。

   そこで、次の段階。


                釣 果
                        川端 進

                    あゆつりが                                
                    あゆつりにきた                            
                    あゆつりにきたんだが                      
                    あゆつりするのかしないのか                
                    つりじたくはしたものの                    
                    竿はかたてに                              
                    たもは腰に                                
                    川原を                                    
                    あっちに                                  
                    こっちに                                  
                    いったりきたり                            
                    きたりいったりして                        
                    あゆつりがあゆつりにあゆつりのはなしを    
                    はなし                                    
                    はなしまわり                              
                    ひがないちにち                            
                    はなしまわって                            
                    あゆつりは                                
                    とうとう                                  
                    あゆつりしないで                          
                    あゆつりからあゆをもらって                
                    みちたりた顔で                            
                    どうもね                                  
                    と手をふって                              
                    きたみちをきたとおりに                    
                    かえっていった                            
                    かえっていったんだが                      
                    家にかえれば                              
                    あれも釣果                                
                    に                                        
                    なるんだね                                
                    きっと                                    

                         (上掲書P.18)

   もう一作。何しろ、お名前がお名前なので……ね。


               慣 用 語
                       川端 進

                      石に尻をおいて                         
                      竿を出していると                       
                      初老の監視員がやってきて               
                      「つれましたか?」                     
                      と聞いてきた                           
                      「ぜんぜん だめだめ」                 
                      暫く見ていて                           
                      首をかしげながら                       
                      初老の監視員はいった                   
                      「だんな きのうはよかったんだがなァ」 
                                                             
                      このことば                             
                      きのう 聞いたばかりなんだがなァ       

                                    (上掲書P.22)

   多分、今日の今頃も、川端においでで、悠々として空を見ていらっしゃることと思
  います。景色になっておいでのことを、共に喜びあいたいと思っています。セ・ラ・
  ビィであります。



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