No.115 −訳詩−



            "This tastes great," you said and so                  
                                                                  
            the sixth of July                                     
                                                                  
            our salad anniversary                                 
                                                                  
                    (俵 万智「言葉の虫めがね」H.11より)

   原作が何であるかは、すぐお気付きのこととは思いますが、念のために記しておき
  ます。

      「この味がいいね」と君が言ったから
                七月六日はサラダ記念日
                                                   俵 万智

   御本人が、翻訳者に言われて、「えっ?」となったのが、My 記念日なのか、Our 
  記念日なのか、ということだったそうです。
     日本語は、そのあたりが曖昧だから、かえって良いのですが、外国語になると、そ
  うはいかない、というお話です。

   ついでに、同じ部分から、もう一つ引用させていたゞきましょう。

        因爲nin説「這個味道不錯」、
        所以我把 七月六日號 爲沙拉記念日.

   この中国語訳では、はっきり「自分」が決めた、と決めつけています。
   御本人は、この中国語訳を、又、日本語に訳して、

        「この味よし」と汝言へり
        よって我、七月六日をサラダ記念日となす。

   といって居られます。中国語を見ると、それが現代文であっても、漢文的な受けと
  め方になる、ということなのでしょうか。


   大分以前に、外国人の詩を日本語訳した時の、人による違いを御紹介したことがあ
  りましたが、ごく最近、それを、もっと本格的におやりになっている方のあることに
  気付きました。
     岡井 隆さんの「詩歌の近代」(岩波書店 '99,3月刊)です。その107頁から、「訳
  詩を読む」という部分があるのです。主たるテーマは、T.S.エリオットの「荒地」の
  冒頭の部分と、ブラウニングの「ピパの歌。」というより「海潮音」で「春の朝」と
  して訳出されていたもの。
     そこで、「海潮音」の有名な部分を皆さんご存じではありましょうが、先ず…。

                春の朝
                         作:ブラウニング
                         訳:上 田  敏

                        時は春、                            
                        日は朝(あした)、                  
                        朝は七時、                          
                        片岡に露みちて、                    
                        揚雲雀(あげひばり)なのりいで、    
                        蝸牛(かたつむり)枝に這(は)ひ、  
                        神、そらに知ろしめす。              
                        すべて世は事も無し。                

   岡井さんのこの御作で、この詩が劇詩「ピッパは過ぎ行く」というドラマの中の、
  殺人事件の起こった場面で、それと知らずピッパが「無邪気に声も清らかに謳」った
  のが、この詩の部分「ピパの歌」なんだそうで、これ又、「えっ、そうだったの!」  という大発見でした。(詳しくは同書 P.124.125 をどうぞ)

   ところで、この原詩は、岩波文庫の平井正穂編;「イギリス名詩選」によると、

                Pippa's Song

                           The year's at the spring       
                                                          
                           And day's at the morn;         
                                                          
                           Morning's at seven;            
                                                          
                           The hill-side's dew-pearled;    
                                                          
                           The lark's on the wing;        
                                                          
                           The snail's on the thorn;      
                                                          
                           God's in his heaven--          
                                                          
                           All's right with the world!    


   で、「日本近代文学大系52 明治大正訳詩集」には、今までになされてきた多くの
  研究・考察が述べられているようですが、今日は、上記編者の平井正穂訳を、付記し
  ておくだけにしましょう。

                 ピッパの歌

                            歳はめぐり、春はきたり、       
                            日はめぐり、朝きたる。         
                            今、朝の7時、                 
                            山辺に真珠の露煌(きらめ)く   
                            雲雀、青空を翔け、             
                            蝸牛、棘(いばら)の上を這う。 
                            神、天にいまし給い、           
                            地にはただ平和!               

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