夏休みが終わって、というより、2学期が始まって、そろそろ1ヶ月になります。
その間、決意を新たにして登校し始めた子たちの中には、やはり駄目だった子も、
もう、いる筈です。
ところが、生徒の登校拒否どころではない、先生の登校拒否が出てきているよ、
という話を聞くようになって、これ又、だいぶん長い時間が経ってしまったなと思
う頃、それどころではない、とうとう学級崩壊だといいます。
今年8月26日の新聞には、「学級崩壊対策に助っ人」として文部省は「担任のサ
ブにOB先生」をという方針を決めたという記事が出ていました。
世の中が平和すぎるためか、親切なことが人間的だという常識が世に瀰漫してい
る為か、教育をする方の指導力が低下している為か、何かが違うのではないか、と
思うことが時々あるのですが……。
学 校
辻 征夫
ゆうべからおなかが痛くて
医者へ行くから今日は休むと電話をかけた
もちろんおなかは痛くないし医者にも行かない
わたしは教師だが教師だってときには
学校なんかに行きたくない日があるんだよ
だれも私を(ぼくを/おれを)わかってくれない?
あたりまえじゃないか
ひとの内部ってのは やわらかい 壊れやすい 暗闇だから
無闇にずかずか踏み込んではいけない
それが礼儀なんだよ
それくらいのこともわからないぼんくらに
(きみの気持ちはよくわかるけどね)
そんなことまでいうんだわたしは
ああなんだかほんとうにおなかが痛んできたよ
だんだんずるやすみではなくなってきたみたいだけど
とにかく今日は行かないよ
ぜったいに行かない 登校拒否だ
そう決めたんだわたしはって
こういうところは子供のときと同じだなあ
おさなごころって
こんなところに残っていたんだ
あとで女房に話してやろう
女房のおさなごころはなへんにあるか 臀部か
と考えていると娘の部屋で物音がした
とうに学校へ行っていなければいけない時間なのに
どうしたのだろう
なになに ゆうべ遅くまで勉強したので起きられなかった?
今日は行きたくないから電話をかけて?
やだなあ
やだよ
娘と二人で散歩に出かけた
ちょっと近所のつもりが電車に乗って
郊外の川原に来た
変な気持ちだがいい気持ち
ぼんやりしてたら娘が言った
おとうさん?
なあに?
あしたは学校へ行く?
どうしよう
行けば?
うん
(辻 征夫「船出」'99)
この作者は、慢性的教員登校拒否症ではありません。生きの良い江戸っ子。昭和14
年、浅草生まれ、本所・向島育ち。藤村記念歴程賞、高見順賞、芸術選奨文部大臣
賞、萩原朔太郎賞、などなど、名だたる賞を貰っておいでです。
江戸っ子振りは、次の作品でも良く解ります。
螢
辻 征夫
噛めば苦そうな不味そうな螢かな
(だれだい こんなの作ったのは
土手の野良猫です?
ま いいや
鰹節(かつぶし)で一献(いっこん)さしあげたいと
そいって呼んでおいで)
(同 上 書)
この方の心のあり方は、他の多くの作品に、そのどの作品にも、たっぷりと、た
っぷりと、現れているのです。
風の名前
辻 征夫
窓の外に
風がいる
窓辺に行くと
風のやつ
頬にふれる
(お部屋の中を
通っていい?)
(いいよ)
風が吹いて行く
手をさしのべているのは
風の肉体にさわっているんだ
微風のマリー
隙間風のジューン
ミセス秋風
(マタサブロウは
どうしている?)
(知らないわ)
吹きさらしの
暮らしである
(同 上 書)
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